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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)85号 判決

一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び審決の理由の要点)は当事者間に争いがなく、審決摘示に係る引用例の記載内容、本願発明と引用例の一致点、相違点も当事者間に争いがない。

二 また、右当事者間に争いのない本願発明の要旨並びに成立に争いのない甲第六号証の一(本願の特許願、明細書、図面)、同号証の二(昭和六〇年九月二六日付手続補正書)及び同号証の三(昭和六一年四月一四日付手続補正書)によれば、本願発明は、シリコンウエハー等の半導体に酸化皮膜を形成するための装置に関するものであること、従来から、右酸化皮膜の成長速度が温度、圧力の関数(高温、高圧であるほど速い。)で、その処理速度を早めるためには高温又は高圧下で処理すればよいことが知られていたが、高温化による場合には、一定以上の高温にすると先行の拡散処理に悪影響を及ぼしたり、大型のシリコンウエハーの処理に不利となる欠点があり、他方、高圧化による装置は、酸化皮膜形成のための反応室としてステンレス鋼製容器等を用い高圧の水蒸気を反応室に直接送るなどするものであつたため、反応室の内部全体が水蒸気による酸化効果を受けるなどして反応室内が汚染されるおそれがあつたこと、本願発明は、従来技術のこのような状況にかんがみ、前処理に悪影響を与えることなく高品質の酸化皮膜の成長を早めるための制御を行うために、前記高温化による欠点を惹起しない程度の高温で、かつ高圧という条件下において、大型のシリコンウエハーを他の化学反応等により汚染されるおそれのない「清浄室」状態で酸化する装置を提供することを目的とし、右目的を達成するために、その特許請求の範囲第一項に記載されたとおりの構成を採用したものであることが認められる。

三 取消事由に対する判断

1 まず、原告が特別顕著な作用効果を奏するとする「上記容器内の圧力を上記ハウジング内の圧力と同圧以上にしない圧力調節手段を備え」との構成の有する技術的意義について検討する。

(一) 本願発明の装置が、ハウジングにより形成される圧力室内に反応室を備える容器を配置した、いわゆる二重管構造を採用するものであることは前記当事者間に争いのない本願発明の要旨から明らかであり、また、前掲甲第六号証の一によれば、本願明細書の発明の詳細な説明中には、「室6(圧力室)と12(反応室)の圧力を等しくする為の圧力調節手段24は、」(同証一一頁一六行ないし一七行)、「ハウジング5と容器11に排出路22と23を設け、また、排出路22、23には、圧力調整手段24を接続して室6と12の間の上記圧力平衡を維持し……この圧力平衡により、容器11として比較的薄い壁の水晶管を使用することが可能となり、」(同七頁二〇行ないし八頁七行)、「逆止弁89は室12と6の間の適正な平衡が破れ、所定の許容範囲を超えた場合、室の破裂を防止する為に、…接続される」(同一三頁一九行ないし一四頁三行)との記載のあることが認められるところ、これらの記載に徴すれば、前記構成中の「圧力調節手段」は、本来、二重管構造をなす圧力室と反応室の圧力差を平衡に保つためのものであり、本願発明は、これにより維持される圧力平衡により比較的薄い壁の容器を用いて反応室を形成することを可能にしたものであることが認められる。

(二) そうであれば、本願発明における「容器内の圧力をハウジング内の圧力と同圧以上にしない圧力調節手段を備え」との構成は、その記載上は明記されていないとはいえ(特許請求の範囲のその余の記載中にも反応室と圧力室との圧力関係に関する記載はない。)、右構成全体の技術的意義は、容器の破壊を防止するため、該圧力調節手段により可及的に容器内外の圧力差を均衡に維持する点にあることは明らかである。そして、後記のとおり、本願発明において「容器」の材質を石英ガラスに限定して解することができない以上、右構成において、更に、「容器内の圧力をハウジング内の圧力と同圧以上にしない」との限定を付したこと自体の技術的意義及び効果については、本願明細書(前掲甲第六号証の一ないし三)中にこれを知る手掛りとなる記載を見出すことはできない。しかし、前示のとおり、該限定を含む前記構成全体の主たる技術的意義が可及的に容器内外の圧力平衡を維持する点にあると解されること、また、前記構成中の「同圧以上にしない」との記載や、前記(一)認定にかかる、本願明細書中の「室12と6との間の適正な平衡が破れ、所定の許容範囲を超えた場合、」との記載からも明らかなように、右圧力平衡は、容器内外の圧力差を零にすることを意味するものではなく、一定の許容範囲を有するものであると解されること等にかんがみれば、右限定は、たかだか一定の許容範囲の限度において、容器内(反応室)の圧力をハウジング内(圧力室)の圧力より小さい状態に調整することにより容器内外の圧力の平衡を保つことを意味するものにすぎないものと解するほかないものというべきである。そして、右限定を付した意義がこの程度にしか解されない以上、これによる作用効果に格別のものを認めることはできない。

もつとも、「容器内の圧力をハウジング内の圧力と同圧以上にしない圧力調節手段を備え」との文言は、形式的には、圧力平衡が破れるような場合でも必ず容器内の圧力がハウジング内の圧力より小さい状態にとどめるとの趣旨に解される余地もないではないが、圧力平衡が破れるような場合に容器内の圧力がハウジング内の圧力より大きくなるか小さくなるかは、必ずしも常には図り難いのであり、前掲甲第六号証の一ないし三の本願明細書の記載全体に徴しても、本願発明の「圧力調節手段」は、そのいずれの場合においても可及的に容器内外の圧力平衡を回復しようとする機能をするにすぎないものであることは明らかであり、また、右明細書中には、右「圧力調節手段」が前示の形式的解釈によるような機能をする旨の説明も、そのための技術的手段の開示もみられないのであるから、もとより、そのような解釈の余地はないものというべきである。

2 これに対し、前記当事者間に争いのない引用例の記載内容及び成立に争いのない甲第二号証(昭和五二年三月発行の電子通信学会創立六〇周年記念総合全国大会講演論文集〔分冊2〕二―一一一頁・論文番号三三四「高圧法によるシリコン酸化膜の生成」、引用例)によれば、引用例記載の発明は、半導体に酸化皮膜を形成する装置に関し、その構成は概略別紙(二)図面のとおりで、本願発明同様いわゆる二重管構造のものであることが認められるところ、内外管の圧力関係について、右引用例中には、「昇圧は石英管(本願発明の「容器」に相当する。)及びチエンバ(同じく「ハウジング」に相当する。)に独立でN2で行いチエンバ内の汚染物が石英管に流入しないように常にやや石英管内圧が高いようにコントロールした」(引用例の「実験」の項の七行ないし一〇行)旨の記載があることが認められる。

右記載によれば、引用例の装置においては、容器内外の圧力調整は容器内への汚染物流入防止を直接の目的としているごとくみられるが、その旨の明記はないとはいえ、同装置においても、本願発明と同様、二重管構造の反応装置である以上、右記載に係る圧力調整は容器内外の圧力をほぼ平衡させることにより、容器が圧力非平衡による圧力差より破壊されることを防止することを本来の目的とするものであることは明らかである。

3 しかして、本願発明における「容器内の圧力をハウジング内の圧力と同圧以上にしない圧力調節手段を備え」との構成と引用例記載の前記容器内外の圧力関係の調整を比較すると、両発明のものは、ともに二重管構造の反応装置において、反応室を形成する容器内外の圧力を可及的に平衡させることにより、容器が圧力非平衡による圧力差によつて破壊されるのを防止することを主たる目的とする点において一致するものであり、ただ、その具体的な調整の態様として、本願発明においては、容器内(反応室)の圧力をハウジング内(圧力室)の圧力より小さい状態に調整する旨限定したのに対し、引用例記載のものにおいては、容器の外から汚染物質が容器内に流入するのを防ぐ配慮から、これを、「常にやや石英管内圧が高いようにコントロール」するものとした点で相違するものと一応いうことができる。しかしながら、前記のとおり、本願発明において、右の限定が有する技術的意義ないしこれが奏する作用効果に格別のものを認めることができないものである以上、両者は容器内外の圧力平衡を維持するに足りる許容範囲内で、容器内外のいずれかの圧力を大きく(又は小さく)調整する点に差異があるにすぎず、それはいわば単なる設計上の選択事項にとどまるというべきであるから、審決が、これを本質的に異ならないものと認定した点に誤りはないというべきであり、また、そうである以上、右圧力平衡を保つための圧力調節手段を設けることに格別の困難性があるとも認められないから、この点に関する審決の認定判断は相当であつて、誤りはない(むしろ、汚染物流入防止という観点からは、容器内の圧力を容器外の圧力より高く調整した引用例記載の発明の方がその圧力調整関係を逆にしている本願発明より優れているということができるのである。)。

4 ところで、原告は、本願発明は、「容器内の圧力をハウジング内の圧力と同圧以上にしない圧力調節手段を備え」との構成を採用することにより、本願発明の容器の材質である石英ガラスにおける、引張り強度よりも圧縮強度が著しく高いとの周知の特性を利用して、本願発明の容器の耐久力を引用例のものに比し顕著な強度に保たしめ、もつて、容器の厚みを著しく薄くする等の顕著な作用効果を奏し得たものであり、容易に想到し得るものでもない旨主張するところ、石英ガラスが右のような特性を有することは周知の事項であることについては当事者間に争いがなく、また、本願発明の特許請求の範囲における「容器内の圧力をハウジング内の圧力と同圧以上にしない」との構成が、容器に圧縮力を働かしめることになるものであることもその記載自体から明らかというべきである。

しかしながら、前掲甲第六号証の一ないし三の本願明細書によるも、本願発明に係る特許請求の範囲の記載中に反応室を形成する容器の材質を石英ガラス製に限定した記載を見出すことができないのは勿論、右明細書の発明の詳細な説明及び図面を参酌しても、その発明の詳細な説明中に「水晶管」に関する記載が二箇所(甲第六号証の一の六頁一行ないし四行「酸化膜の成長は、密閉された、水晶壁を有する反応室において、高い圧力下で行われ、この水晶容器は、不活性ガスの高圧外囲ブラケツトにより支持されており、」、八頁五行ないし一〇行「この圧力平衡により、容器11として比較的薄い壁の水晶管を使用することが可能となり、その結果ウエハー及び酸化処理が「清浄室」状態で行われ、水晶管の外部の加熱及び加圧構造に存在する汚染物から完全に隔離される。」)認められるものの、これらはいずれも最適例により本願発明の概要を説明したものであるか又は一実施例を示したものにすぎないものと解され、本願発明の「容器」の材質を石英ガラスに限定するものとまでは認め難いし、また、前記二認定の本願発明の目的等との関係でも、石英ガラス製の容器でなければその目的が達成されることはあり得ないとまで解すべき証拠はないから、本願発明の容器を石英ガラス製のものに限定すべき根拠はないものというべきであり、したがつて、右「容器」が石英ガラス製であることを前提とすることの明らかな原告の主張は、その点において既に失当というべきである。また、仮に右の点を措き、本願明細書に記載された「水晶管」が本願発明の「容器」の最適例を示しているものとの観点から、これが石英ガラス製の「容器」であるとの前提に立つて検討してみても、半導体ウエハーの酸化皮膜形成のための反応室を備えた容器に石英ガラスが多く用いられていることは当事者間に争いがないところ、右事実によれば右容器に石英ガラスを用いること自体は慣用手段にすぎないものであり、また、石英ガラスの前記特性が周知のものである以上、これを知る当業者にとつて、必要に応じ、容器内外の圧力関係について本願発明におけるような限定を付すことに格別の困難性を伴うものとは認められず、これによる効果も容易に予測し得るものであるというべきであるから、以上いずれにしても、原告の主張は理由がないものといわざるを得ない(なお、原告は、本願発明の各構成要素の協働による作用効果の点についても主張するもののようであるが、本願発明の奏する作用効果が、各構成要素の奏する効果の総和を越えた、予期し得ない新しいものであることを認めるに足りる証拠はない。)。

5 しかして、相違点(1)及び(3)についての審決の認定判断は原告の争わないところであるところであるから、原告主張の取消事由が理由がない以上、本願発明の進歩性を否定した審決に誤りはない。

三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

圧力室、該圧力室の出入口及び該出入口の閉塞体を備えたハウジング、上記圧力室内に置かれ、半導体ウエハーを収容できる寸法をもつ密封反応室と出入口とを備え且つ該出入口用閉塞体を有する容器及び上記反応室を加熱する手段を備え、上記容器が化学的活性ガスを加圧状態で上記反応室に連続的に流す為の入口及び出口を有し、上記反応室への上記化学的活性ガスの流量調整の為の流量制御装置を備え、上記ハウジングが上記圧力室内に不活性ガスを加圧状態で導入する為の入口を有し、上記容器内の圧力を上記ハウジング内の圧力と同圧以上にしない圧力調整手段を備え、そして上記反応室を不活性ガスで浄化するため上記不活性ガス源を上記容器に連結する手段を備えていることを特徴とする高圧高温ガスの化学装置。(別紙(一)図面参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙(一)

<省略>

(以下省略)

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